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​第7回開催

2019年1月6(日)

開場:13:30 開演14:00〜17:00

黙示の時代の詩魂 

詩人シュテファン・バチウ生誕百年によせて 

今福龍太 × 川瀬慈 × 阪本佳郎

●参加費:1500円  *Impact Hub Kyoto 会員1000円  会員制度⇨

*ドリンク、スナックをご用意いたします。

 

場所:Impact Hub Kyoto

京都市上京区油小路中立売西入ル甲斐守町97番地西陣産業創造會舘(旧西陣電話局) *地下鉄「今出川」または「丸太町」駅から徒歩15分

市バス「堀川中立売」から徒歩5分

アクセス→https://kyoto.impacthub.net/access/

●連絡先: 075-417-0115  info@impacthubkyoto.net

●主催:レジリエンスラボ

シュテファン·バチウ  <Ștefan Baciu: 1918 Brașov- 1993 Honolulu>

詩人、批評家、ジャーナリスト、アンソロジスト、翻訳家、外交官。トランシルヴァニアの文化首都たるブラショフに生まれ、若くして戦間期ルーマニアを代表する詩人となるも、第二次大戦後台頭した共産主義政権から追われるようにスイスへと逃れ、その後ブラジルへ亡命した。リオ·デ·ジャネイロでも詩人として精力的に執筆する傍ら、ジャーナリストとして職を得てラテン·アメリカ各国を歴訪。各国の新聞にて抑圧的体制を糾弾、難民保護のためにペンを振るった。中南米での十数年を経たのちシアトルへ。ブラジルにてブランコ軍事政権が樹立すると、リオには戻らず、ハワイへと移り住んだ。ルーマニアというヨーロッパの辺境に息づく民話·伝承世界の霊性を抱いて旅立ち、ブラジルやラテン·アメリカの土着の祝祭的感性とそれを呼応させ、ハワイでは豊穣の海と火山へと祈る神話的宇宙をくぐり抜け、詩を紡いだ。

 

歴史の災厄に移動を余儀なくされる度に、根こぎされた関係性を新たに出会われる世界へと結びつけながら詩を紡ぐことで生き延びた詩人。ただその詩の営みは、詩人ひとりに依るものではなく、亡命の旅の各地で詩の友情を結んだ朋友たちとの連帯に基づくものであった。彼の生涯で為されたことは数多いが、その大海をこえて広がる詩の営為を体現する最たるものが、MELE-International Poetry Letterという詩誌だった。

MELE – International Poetry Letter   MELEとは、ハワイ語で「歌」や「詩」を意味する。1965年から1994年まで、バチウによって刊行された「詩の国際便」。ルーマニア、ハワイ、ラテンアメリカはじめ、各地の詩人たちの詩が、国境や民族、言語の境界を越えて集った。全90巻のうちに30もの言語が響きあい60以上の国へ撒かれた。歴史に翻弄された流謫の詩人たちが、生きることの内奥にある物語を持ち寄った希求の意志の交響体。そこには、滅亡に瀕した古き叡智が様々な土地から集い、同時代の精神とともに混淆していた。その大洋を跨いで広がる詩の連帯には、喪失の痛苦のなかに生をもとめる苛烈な声が渦巻き、他者との邂逅を喜ぶ交歓の声が溶け合っていた。

今回、バチウ生誕百周年を記念してMELEへのオマージュとなる詩誌MELE ARCHIPELAGO - Homage to Ștefan Baciuが発行されます。ルーマニアやハワイはもちろん、あらゆる土地から、この時代への危急/希求の声を宿した詩が届きました。バチウが災厄に追われた流浪の生のさなか、世界へと振り撒こうとした希望の意志を受け継ぎつつ、黙示の時代を貫いて見出される詩のヴィジョンをこのささやかな詩のつどいにて語り合うことができたらと願っています。

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MELE、太平洋は蒼海の彼方に浮かぶ群島から、世界へむけて差し出された手紙――その差出人にも宛名にも、詩が自由と真実、行動、そして革命であることを信じて疑わない、すべてのものたちの名が記されてゆくであろう手紙。そして銘々の渚に立ち、我々は歌う!

 

今日、私たちの下へは毎日のように災厄を告げる報せが届きます。紛争や政治的暴力を逃れ国境へ押し寄せる難民たち、大潮とともに海へ呑まれようとする島々、大火に消えゆく森林、滅びゆく夥しい種の生きものたち。雪崩のように「世界」へ襲いかかるこれらの災厄は、世界同時的に中継・シェアされて、ある臨界へ、終末へと、ともに向かっているかのように私たちに予感させます。現代は、黙示録的な時代として思考されうるのかもしれません。

 

ただ一方で、「世界」とはある単一の総体であるはずはなく、個別の時間・場所・存在の関係性から開かれる無数の世界の響きあいであり、それぞれが「他者」の物語に対して想いを添えねば――あるいは、添えたとしても――理解しえない繊細な混沌でもあります。

此度お話するシュテファン・バチウは、歴史の災厄に追い立てられ世界中を彷徨する宿命を負った、知られざる流謫の詩人ですが、彼はその旅において出遇われた「他者」の物語のひとつひとつを、愚直なまでに想いを傾け、魂をかけて震わせ、その詩世界に響かせることで、希求しうる再生の未来に賭けた幻視者でありました。2018年は、詩人の生誕百年を記念する年。年は改まりますが1月6日の彼の命日に、その詩と生涯を振り返りつつ、バチウの詩学をこの困難な時代に向けて思考する、ささやかな語りの集いを催します。

今福龍太氏と川瀬慈氏という、旅における「世界」との出会いの界面から、歓喜も痛苦もともに抱き込んでその豊饒さを繊細な物語として紡いで来られた、稀有の詩人人類学者ふたりを招いてのトークセッションです。

今福龍太

(いまふく・りゅうた)文化人類学者・批評家。1955年東京生まれ。東京外国語大学大学院教授。メキシコ、カリブ海、ブラジルなどで調査研究に従事。2002年より巡礼型の野外学舎<奄美自由大学>を主宰。著書に『薄墨色の文法』『ジェロニモたちの方舟』(岩波書店)、『書物変身譚』(新潮社)、『クレオール主義 パルティータⅠ』『群島-世界論 パルティータⅡ』(水声社)など。『ボーダー・クロニクルズ パルティータⅣ』に、晩年のバチウとの出会いから書かれた「ホノルルの窓から」がある。

 

川瀬慈

(かわせ・いつし) 映像人類学者。1977年岐阜県生まれ。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究科博士課程修了。国立民族学博物館・総合政策大学院大学准教授。映像作品に『僕らの時代は』『Room 11, Ethiopia Hotel』など。近著にフィールドであるエチオピア・ゴンダールの吟遊詩人や、物乞いなど、路上に行き交うあらゆる存在との魂からの交感を描いた『ストリートの精霊たち』(世界思想社)。本書の精神は、路傍の小さき者たちのもつ豊穣な世界にこそ想いを凝らしたバチウの佇まいに通じていはしないだろうか。

 

阪本佳郎

(さかもと・よしろう)1984年大阪府生まれ。ハワイ大学伝記文学研究所客員研究員。東京外国語大学大学院博士後期課程。シュテファン・バチウの足跡を追って、ルーマニアからスイス、そしてハワイへ旅し、詩人の歩んだ土地を訪ねてきた。未だ存命の知人友人から詩人についての物語を聞き、各地に散らばったMELEを集めつつ、バチウの詩と生涯を描きだすことを試みている。